旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

広津和郎『若き日』

広津和郎(ひろつかずお)の『若き日』を読みました。
広津の作品はほとんど読んだことがありません。松川事件を追い続けた評論家という印象があるだけです。それと柳浪の子であり桃子の父であること。三人の中で読んだといえるのは柳浪だけです。
『若き日』は1919年に書かれ、1926年に改題加筆された小説です。19年は桃子の生まれた翌年ですが、妻子と別居した年でもありました。
主人公の小島は広津自身でしょう。硯友社系の作家であった父は自然主義の勃興で売れなくなり、家の中に閉じこもるだけの生活をしています。明治の小説家の執筆料はわずかで家計は貧窮していましたが、家族はさほど鬱屈していません。
並べて描かれるのが近所に住む同い年の杉野です。杉野の父はY新聞の記者でしたが結核のため退職し、家で療養しています。社長の温情で給与は払われていましたが、暗い家庭でした。Y新聞は『萬朝報(よろずちょうほう』で、社長は「マムシの周六」こと黒岩涙香(くろいわるいこう)のことでしょう。
杉野には千鶴子という妹がいて、丸顔で愛らしい容姿と屈託のない性格で、家をわずかに明るくしていました。『若き日』は初恋物語でもあります。
広津は正宗白鳥を評価していました。ちょうど白鳥をじっくり読んでみようとしていたところでしたので、いい人と出会えたようです。