旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

森鷗外『壽阿彌の手紙』

森鷗外の『壽阿彌の手紙』を読みました。
『澁江抽齋』の追記として読み始めました。歴史書には出てこない多くの人名と印刻されていないであろう文書の、それも漢文を含む、引用に辟易し、どうせ追記だからと読み飛ばすつもりでしたが、だんだんと惹かれていき、同じ文を何度もたどりながらの読書となりました。
伊澤蘭軒の嗣子、榛軒(しんけん)の娘、曾能子(そのこ)が現存し、壽阿彌と会ったことを聞くあたりからこの史伝はぐっと面白さを増してきます。文献の中にだけあった壽阿彌の姿が立ち現れてくるのです。
その後、鷗外は小石川の昌林院に壽阿彌の墓を訪ねます。墓は傳通院に移り、公開もされていませんでしたが、壽阿彌の命日に詣でる老女のいることを知ります。なんとその媼、石(いし)は壽阿彌の姪であったのです。
このような本は、以前の私なら読み通すことができなかったでしょう。完読できていない中村真一郎の『木村蒹葭堂(けんかどう)のサロン』(2000年、新潮社)も読めそうな気がしてきました。