旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

先生

私はその人を常に先生と呼んでいた。


江刺に来ています。
いきなり漱石の「こころ」の冒頭を引用してしまいましたが、これにはわけがあります。実は私にも、常に<先生>と呼ぶ人が江刺にいるのです。


先生とお近づきになったのは昨年のことでした。馴染みの居酒屋で隣り合わせになり、先生が声をかけてくれました。
東京でそんなことがあると引いてしまう私ですが、町全体が知りあいのような雰囲気のある江刺なので、気軽に応じました。先生は私よりだいぶ年長に思えましたので、それもあったのでしょう。
実際話をしてみると、先生は私より15歳年上であることがわかりました。でも、とてもそのような年齢には見えません。おしゃべりは落語の話から始まったのですが、小さな声ですが先生の声は聞きやすく、話題も豊富です。


なぜ<先生>なのでしょうか。
店の人が教えてくれたのですが、先生は高校の教師だったそうです。思うところがあって学校は辞め、私塾を開き、多くの人を教えてきたとのこと。
教え子は多いとみえ、その居酒屋でも「先生、お先に」と声をかけ、先に帰って行く人が何人かいました。
それで私も先生と呼ぶようになったのですが、先生の名前は今も知りません。


今夜また先生と会えることを期待して、その居酒屋を覗いてみるつもりです。