旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

Maki told us.

「ベッシー・スミスの‥‥レコード‥‥‥箱に入ったのを‥買っちゃった。‥‥‥‥いいねぇ。」
浅川マキは曲の合間に、ぼそぼそとそう語りました。客席にいた私はまだ十代でした。
ベッシー・スミスの名前を聞いたのは、それが最初です。


お茶の水の「ディスクユニオン」でそのレコードを見つけました。モノクロのジャケットで、スミスの顔だけが白く浮き出していました。同じようなデザインのビリー・ホリディのセットも並んでいましたから、コロムビアレーベルの輸入盤だったのでしょう。
当時の私には、それを買えるお金の持ち合わせはありませんでした。


なぜか行きつけのジャズ喫茶「フラミンゴ」にそのレコードが置かれていました。もちろんリクエストしました。1枚目のA面です。
音の悪さに驚きました。もとはSP盤で、しかたがないのでしょうが、それにしてもひどすぎます。スミスはピアノの伴奏だけで歌っていましたが、ブルーズを聞いたことのなかった私には、それがとてもやぼったく思えました。
「マキさんはああ言っていたけど、ベッシー・スミスはもういいや。」


プロパーレコードのボックスセット「Chattanooga Gal」がやっと届きました。
「フラミンゴ」で聞いて以来、私はスミスを聞くことはありませんでした。ブルーズは聞くようになりましたが、彼女のレコードを買うことはなかったのです。
それがなぜ‥‥。
きっかけはマーティン・スコセッシの編んだコンピレーションアルバム「The Blues - A Musical Journey」でした。この5枚組のボックスセットの1枚目に、スミスの「マディ・ウォーター」が収録されていたのです。それはすばらしいジャンプ・ブルーズでした。
スミスの写真にも驚きました。巻き毛のカツラをつけ、チャールストンを踊っているようなそれだったのです。かって見た、不幸そうなポートレートの女性とはまるで別人でした。
「ベッシー・スミスってバンド・シンガーだったんだ。」


40年前に私の聞いた曲は、「Chattanooga Gal」の1枚目に入っていました。


Chattanooga Gal

Chattanooga Gal