旭亭だより

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桜のころ王子駅で

桜のころの王子駅

堀江敏幸「いつか王子駅で」は、新潮文庫の新刊で出たときに手にしたことがありました。しかし、書名と解説から、軽い青春小説と錯覚し、平積みの上に戻してしまいました。


私は王子駅周辺を歩いたことが一度しかありません。一昨年、飛鳥山に桜を見に行ったのです。
台東区で育った私には、桜といえば隅田公園か上野公園しか考えられません。江戸時代には、上野の山では飲食が禁じられていましたので、八っつぁん熊さんの花見をしたのが飛鳥山だったことは知っていたのですが、足を運ぶことはありませんでした。ソメイヨシノの流行は明治時代からですので、江戸時代の上野や王子の桜の様子は、今とだいぶ違っていたのでしょうが。
その日は、もちろん王子稲荷にも寄ってきました。狐の住んでいた穴、今でもありますよ。


「雪沼とその周辺」が初めて読んだ堀江の小説でした。架空の土地の話です。
「いつか王子駅で」は実在の町が舞台で、登場人物たちも、いかにもあそこにならいるかもしれない、と感じさせられる人々なのですが、やはり小説家の頭の中にある「王子」なのでしょう。


堀江の新刊「未見坂」も、架空の土地に生きる人々を描いた連作短編集だそうでが、彼の小説を読んでいると私は、自分の夢の中の町と、そこに住む人々のことを書き残したくなってきます。
公にする気がないのなら、それは許されることなのでしょう。