旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

服と着物

最近は聞かなくなりましたが私が小さかったころには、着るもの全般を、和服洋服を問わず「着物」と言う人が大勢いました。茨城県の母の実家の方でも聞きましたから、東京の下町に限った表現ではなかったようです。
現在では「着物」は和服のみに使われるようになっていますが、先日翻訳の文章に古い使い方を見つけました。


大津栄一郎編訳による岩波文庫の「20世紀アメリカ短篇選」上巻に二箇所、それが使われていました。原文にあたったわけではありませんが、別の作家の小説ですから kimono と書かれていたのではなさそうです。また、同じ理由から、古色を出そうとして、わざわざ「着物」と訳したわけではないとも考えられます。
おそらく、1931年生まれの大津氏は日常的に「着物」ということばを使っているのでしょう。それはそれで嬉しくなってしまうのですが、やはり「服」と訳すのが妥当でしょう。


このアンソロジー、巻末の解説が出色です。思わず膝を打った箇所を引いておきます。常々ヘミングウェイを面白く思えない自分を卑下していた私に、一筋の光明を投げかけてくれた部分です。

そしてヨーロッパでの戦争や革命の一場面を伝える小文にアメリカでのエピソード的小話を組み合わせて、現代を伝えようとした短篇集 In Our Times (1925) と、パリの国籍離脱者の群れと戦争で性的不能者になった男を描く The Sun Also Rises (1926) で、ロスト・ジェネレイションの代表者となった。その後の彼は一種の偶像となり、A Farewell to Arms (1929) や For Whom the Bell Tolls (1940) のベストセラーを書いたが、真の作家としては最初の二作で終わっている。


20世紀アメリカ短篇選〈上〉 (岩波文庫)

20世紀アメリカ短篇選〈上〉 (岩波文庫)