旭亭だより

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亀井俊介「英文学者 夏目漱石」

涼しいと本が早く読めるのか、昨日は 「競売ナンバー49の叫び」のあと、亀井俊介「英文学者 夏目漱石」(松柏社)も読み終えてしまいました。講演をもとに、話しことばで書かれたものなので、読みやすかったこともあります。


英文学者としての漱石といえば、どうしても「文学論」になります。この本もそこに焦点は置かれていますが、学生時代、教師前期、英国留学、教師後期の四期をまんべんなく取り上げ、英文学を学び、教える漱石を敬意と愛情を持って描いています。
漱石の生涯を調べた人には、新しい発見はありませんので、物足りない本かもしれません。私もそのように感じて読み進めたのですが、掉尾の「文学論」の講義の様子を再現しようとした部分に深く打たれました。


漱石と同じ東大で英文学を学んだ著者は、「長年、漱石の文学にはあまり親しめなかっった」(228頁、以下の引用も)そうです。また、東大では英文学者としての漱石は高く評価されていなかったとも。
しかし、その後著者は「わが『開祖』がたいへん英語ができたことはすぐに分かった。学問が漱石時代よりも進んでいるなどということも、どうやら迷妄にすぎない」と考えるようになり、「本気になって英文学者夏目漱石のなしたことの追跡に乗り出し」ました。


著者はあの難解な「文学論」の注解を岩波の新全集と文庫につけているのですが、彼にしてもあれは「途方もない難物」であったそうで、注解の依頼があってはじめて読解に取り組んだようです。
学者生活を続けていた人であってもそうなのかと、少し気が楽になりました。著者に感謝、です。