大江健三郎の「晩年様式集(イン・レイト・スタイル)」を読み終えました。
大江の小説の重要な登場人物であるギー兄さんの息子、ギー・ジュニアが「取り替え子(チェンジリング)」の冒頭を「複雑な書き方ですから」(245頁)と評する部分があります。
私小説のような語り口の後期の小説を、大江は作品の中で、それ以前のものより読みやすいはずと書いていました。確かにそうなのですが、三十年近いブランクを経て昨年から大江の読者に復帰した私には、それでも難しい文章でした。
ことばは平易なのですが、主語と目的語を補わないと理解しにくいというのが私の印象でした。そして、それが見つかりにくいのです。もちろん、作家はそれを意図しているに決まっています。
難解ではなく「複雑な書き方」をしているのか。作家自身の種明しに、溜飲が下がる思いがしています。