旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

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大江健三郎の後期小説の再読は『晩年様式集(イン・レイト・スタイル)』(講談社/2013年)まできました。(6月7日の便りに岩波書店と書いてしまいました。訂正します。)この作品以降、彼は小説を発表していません。
これを読み終えたら、大江自身の小説とは離れ、そこに出てきた海外の作品を読む予定でした。が、ギー兄さんについての記述の多いこの小説を読んでいると、『懐かしい年への手紙』(講談社文芸文庫/1992年)に遡りたくなりました。
長江古義人がギー・ジュニアに語る次の言葉が私をとらえました。78歳の老作家が34歳の青年に、こんな熱い思いを語りかけるのです。
「話が飛ぶけれど、電車で本を読んでいて、特別なことが起こる、その経験を僕は思うんだね。これは画家のフランシス・ベーコンの言葉だけれど、現実の人体を見て、またそれの正確な表現を見て、自分の奥底の「神経組織」が……きみの慣れてる言葉だと nervous system が突き刺される。同じことが活字によって行なわれる。窓の外に目をやると、風景がこれまで自分になかった観察のエネルギーをあたえられて、生きいきしている。そういうことがあるだろう?」(269頁)