旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

錦織、錦織、うーん誰だっけ

スポーツにはまったく興味のない私ですが、錦織圭選手の名前は覚えました。
錦織と云う姓を見て「にしごり」と読むものだと思っていました。「にしこり」なんですね。
少年隊のニッキは「にしきおり」だし、錦織の姓の知人はいません。では、なぜ自分は「にしごり」と読んだのかが気になってきました。
たぶん、この姓の人物を私は知っているのです。知人にいないのなら、本の中です。
このようなときは、記憶を探るしかありません。それも、あわてずにゆっくりと。
おぼろげに何か浮かんできました。明治時代のある事件、歴史の教科書には出てこないような小さな事件と関わりがあった人たちの中に、錦織姓の人物がいたのではないか。
ここまで来ればあと一歩です。書かれていた本にたどり着く端緒はつかめたのですから。
小説です。歴史書ではありません。史実と虚構が綯い交ぜになった明治時代を舞台にした小説です。
そんなものを書くのは、山田風太郎に決まっています。問題はその小説が今、手元にあるかです。山田の本の多くは処分してしまいました。
整理を終えた旭亭の書棚から山田の著作を見つけるのは簡単です。それに対象は明治物小説に限られています。それも長編です。ほら、あった。
ちくま文庫の「山田風太郎明治小説全集・第四巻」の「幻燈辻馬車・下」にたった一行、その名前が記されていました。錦織剛清です。小説の重要な登場人物、老儒学者・錦織晩香が志賀直哉の祖父で主家である相馬家の家令の三左衛門にこう言います。「わしの縁戚にな、剛清という一徹者がおる。」
「にしごり」は錦織晩香に振られてルビにありました。しかし彼は架空の人物です。実際の事件なら、これだけしか書かれていない剛清と関係があるはずです。
山田は小説のこの部分に史実を埋め込んでいます。しかし、錦織剛清の関わった事件については「幻燈辻馬車」には何も書かれていません。でも私はそれを知っていたらしいのです。なぜでしょうか。
答えは簡単に見つかりました。「山田風太郎明治小説全集・第四巻」には「幻燈辻馬車」の後半だけでなく、短編小説が三つ収録されています。その中の「明治忠臣蔵」にその事件のことが書かれていたのです。
私は「明治忠臣蔵」で錦織剛清のことを覚えていたのでしょう。しかし、「幻燈辻馬車」を経由しなければここにたどりつけなかったことは間違いありません。
後に「相馬事件」と呼ばれた奇っ怪なこの騒動では、あの後藤新平までもが勾引されていました。