旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

路上の商い - チャンバラ飴

手動式メリーゴーランドや移動映画館もそうでしたが、物売りはみな一人でやって来ました。例外はチャンバラ飴で、これは大がかりな商売でした。
その一行を見たとき、近くの芝居小屋の宣伝かと思いました。道中合羽に三度笠の渡世人、鳥追い姿の女性、尻からげの男たち二人、やくざ芝居から抜け出たような人たちが町にやって来たのです。本格的な衣裳と鬘を付け、化粧も念入りです。
人が集まると、渡世人の口上が始まりました。「私たちはこれからここでチャンバラ劇をお見せいたします。見料はいただきませんが、その代わりに飴を買っていただきたい。」
十分ほどの芝居が始まりました。鳥追いにからむ男たち。渡世人は「お前(めい)たち、やめねえか」とその間に入ります。感謝し渡世人にすがる鳥追い。「何をしやがる、この野郎」と男たちは長どすを抜き渡世人に斬りかかります。暫し殺陣(たて)があり、打ち負かされた男たちは捨て台詞を吐いて去っていきます。息を整え、役者一同は観客に頭を下げます。ぱらぱらと拍手が起こりました。
さて、商売です。台の上に蓋をしたケースが置かれています。中には澱粉をまぶした、昔ながらの白飴が並んでいます。紙芝居のように一人あたり一つで、値段は高めです。買う人はあまりいません。私もそうでした。
チャンバラ飴は一度しか来ませんでした。たぶん、解散した旅芝居の人たちがやっていたのでしょう。
手動式メリーゴーランドや移動映画館、チャンバラ飴、どの商売も儲りそうにありません。町を歩けば工員や事務員、店員を「求む」手書きのチラシがあちこちに貼られていた時代です。次の仕事、すぐにみつかったよね。チャンバラ飴の人たちはチンドン屋もいいけどな。