旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

アイリーン・アドラーのポートレート

日暮雅通訳の光文社文庫シャーロック・ホームズ全集の第一巻を漸く読み始めました。
私が今までに読んだシャーロック・ホームズものは阿部知二鮎川信夫の翻訳が多かったのですが、この日暮訳は平易な文章でとてもスムーズに読み進めることができます。


ホームズ物語の冒頭を飾るのは「ボヘミアの醜聞」ですが、これは「緋色の研究」「四つの署名」というふたつの長編の後に執筆された初めての短編作品です。この作品によってホームズの人気は決定的になるのですが、ご存知の通りこれはホームズの敗北物語です。そしてホームズの One and Only Love の物語でもあります。お相手はオペラ歌手、アイリーン・アドラー。
依頼人であるボヘミア国王から事件解決の報酬として渡されたエメラルドの指輪を拒否して、その代わりに得たアイリーン・アドラーのポートレートを、ホームズはおそらく毎日眺めていたのでしょうね。


ホームズ物語は小学生の頃、年上の友人が持っていた子供向け世界文学全集で読んだのが最初です。その前にルパンのシリーズは何冊か読んでいましたが、すぐにホームズに夢中になり、友だちにホームズの推理を得々と話したものでした。しかし子供向けにリライトされたこの本には、当然と言えば当然なのですが「ボヘミアの醜聞」は収録されていませんでした。


年上の友人Kさんはネフローゼを患っていて学校を休むことが多かったのですが、沢山の本を読んでいました。音楽も好きだったようですが、当時の私はそちらには関心がありませんでした。でも、いろいろな知識を彼から吸収しました。
高校に入学してからの彼が、試験の答案を七五調で書いたとか、ジャズ評論家になりたくて油井正一に手紙を書いたとかいう話を聞きましたが、その頃は残念ながらつきあいが絶えていました。荒川区役所に勤務している彼とはもう一度会ってみたいものです。