旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

ライオンの騎士に幸いあれ

岩波文庫の「ドン・キホーテ」後編を読んでいます。
後編のキホーテは前編とはまったく別人のようです。それだから、四百年前に書かれた小説が現在でも読み継がれているのでしょう。
後編の三つめの冒険はライオンとの戦いです。風車とは違い、本物の生きたつがいのライオンが相手です。
国王に贈られるライオンの檻の扉を、例のごとく無理矢理開けさせキホーテはライオンと対峙します。従士のサンチョ・パンサと、この冒険の前に知りあったラ・マンチャの紳士は止めますが、それを聞き入れるキホーテではありません。完全に狂気の人です。
ライオンの冒険は首尾よく終わります。キホーテに呆れている紳士に彼はこう言います。

(あなたが私を気のふれた男と判断していることはわかっている。だが、私はあなたが思っているほど愚かではない。以上旭亭要約)なぜなら拙者は、本当の勇気というものが、臆病と無鉄砲といった二つの極点をなす悪徳のあいだに位置する美徳であるということをよく心得ておるからでござる。しかし、勇敢な者が度を越して無鉄砲の領域に達するほうが、臆病の領域に落ちこんでしまうよりはましでござろう。(略)無鉄砲な男が真の勇者になるのは、臆病者が真の勇者にたどりつくよりはるかに容易ですからの。(288頁)

キホーテのことばに私は素直に感動しました。目頭が熱くなりました。紳士も彼に理解を示します。
この冒険を機に、キホーテは「憂い顔の騎士」から「ライオンの騎士」と呼び名を変えたのです。