旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

絵を描く人たち(7)

約一月後に彼女と、いつもの居酒屋で偶然に顔を合わせました。
スプートニクスのCDを買いました。『霧のカレリア』、私の聞きたかった曲でした。」
彼女は私を見つけると、自分たちのグループから離れ、にこにこ笑いながら話しかけてきました。私は、待ち合わせた連中がまだ来ていなかったので、少し彼女と話をすることにしました。
「この近くでアルバイトをしてるんです。本やパンフレットのデザインをしたり、イラストを描いたりしています。絵を描いているんですが、それだけじゃとても生活できなくて。」
絵を描いている、アルバイト‥‥、ということは彼女は画家なんだ。
化粧も服装も垢抜けない彼女が画家とは、意外な気がしました。アルバイトですから、服装などに手をかけないことはあるのでしょうが。


彼女はそのアルバイト以外にも、幼稚園で絵を教えているそうです。
「友人に頼まれてしぶしぶ始めたのですが、今では子供たちの描く絵が私に刺激を与えてくれています。それはいいんですがお手当はわずかなので、週に二日、都内に出てきてアルバイトをしています。」
「絵では生活できないんですか。」
「数年に一度、仲間とグループ展をやって2、3枚売れる程度ですから、とても生活はできません。画廊に渡してある作品が売れることもありますが、あれって画家の取り分が僅かなのです。あっ、絵を買うときには、個展かグループ展で買ってくださいね。画家は喜びます。」
彼女は東京からだいぶ離れたところに廃校を借り、そこをアトリエにしていました。都内でアルバイトをするときには、友人の家に一泊しているそうです。
彼女がちょうどそのとき持っていたパンフレットのゲラで、彼女のイラストを見ることができました。デフォルメされた動物たちが、色鮮やかに描かれていました。
「クライアントの要望に合わせてありますので私の描く絵とはだいぶ違っていますが、色遣いは近いかなぁ。」
私の仲間たちがやって来ましたので、彼女はペコリとお辞儀をして自分のグループのところに戻って行きました。