旭亭だより

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三島由紀夫『裸体と衣裳』

講談社文芸文庫の『三島由紀夫文学論集』(全3巻/2006年)は「三島で一番いいのは文学論だ」とどこかで聞き、買ったものです。三島の代表作は読んでいますが、今手許にあるのはこの本だけです。
編集はスポーツライター虫明亜呂無(むしあけあろむ)で、それには驚きはしたものの、文庫向けに編集されたものだろうと、冒頭から読まず、気になった箇所に目を通す程度でした。虫明が15年も前に亡くなっていたことを知っていれば本の成り立ちが気になり、別な読み方をしたのでしょうが、今それを悔いてもしかたありません。
三島由紀夫文学論集』の原本は1970年3月に講談社から刊行されました。三島による「序文」は「このたび虫明亜呂無氏の友情により、綿密周到な編集の下に、私の評論集が編まれたことは大きな喜びである」とはじまり、「太陽と鉄」が収録されたことは「その喜びの内でも最大のものだ」と書いています。この年の11月に三島は自決しました。
今第2巻の「裸体と衣裳」を読んでいます。タイトルから連想される肉体論ではなく、雑誌『新潮』1958年4月号から翌年の9月号まで連載された日記です。
これがすこぶる面白いのです。日々の出来事だけでなく、一編の評論として読めるものまで、あの精妙な文章で記されています。日記の掲載期間に三島は『鏡子の家』を執筆し、結婚します。58年5月9日条に「杉山家と結納をとり交わす」とあり、結婚についての考えが続きます。
優れた文章を読む幸せをかみしめています。小説よりもずっといい。