甘粕正彦について書かれた三冊の本、佐野眞一著『甘粕正彦 - 乱心の曠野』(新潮社/2008年)、角田房子著『増補改訂 甘粕大尉』(ちくま文庫/2005年/原本は1975年)、山口猛著『幻のキネマ満映 - 甘粕正彦と活動屋群像』(平凡社ライブラリー/2006年/原本は1989年)をこの順で再読しました。どれも購入時に一読しただけで、比べながら読んでみることはありませんでした。
角田の本が優れているので、後続の二冊は資料の引用箇所もそれとあまり変わらず、甘粕像に大きな違いはありません。また、甘粕を残虐非道の人間と非難してはいないところも三者似ています。
大杉栄たちの殺害までの甘粕は冷徹な憲兵でしかなく、出獄後のフランスでは語学の習得さえできず、博打に金を費やしていました。その後の満洲での裏と表に渉る様様な活動、それでいて酒乱と、甘粕はドストエフスキーの小説に出てきてもおかしくないような人物ですが、それほどまでの魅力を私は感じることができません。