「抱擁家族」というと、すぐに思いだされるのは江藤淳の「成熟と喪失」です。
「成熟と喪失」を読んだのは十代のころです。あのころ、なぜかわかりませんが、小林秀雄と江藤淳は読まなければならないとの強い思いがあったのです。小林のいくつかの評論には感心しましたが、江藤のものはどれも理解できませんでした。
ただ「成熟と喪失」と、文体論である「作家は行動する」はいつか再読することがあるだろうと、手元においてありました。まさかそれが、頭に霜をいただくころになろうとは考えもしませんでしたが。
「成熟と喪失」を読んだときには、そこで取り上げられている小説は一篇も読んでいませんでした。だからといって、それらをすぐに読むこともなかったのです。が、書名だけは覚えていたとみえ、これは「成熟と喪失」で取りあげられていた小説であると意識しながら、後にすべてを読んだものです。
本との(いい感じでの)再会が増えてきました。