旭亭だより

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樽物語

ミステリ好きを公言しているくせに、クロフツの「樽」さえ読んでいないことがバレてしまった(正確にはバラしてしまった)私ですが、道を歩くのも恥ずかしくなり、しかたなくハヤカワ文庫版を買ってきました。
もちろん必読の古典ミステリですから一度は読まなければとは思っていたのですが、古典というものはどの分野でも後回しにされがちなもので、「そのうちにね」とほったらかしにしちゃうつもりでした。
それがこんなに早く読むようになったのは、堀江敏幸の「河岸忘日抄」で取り上げられていたからです。


「河岸忘日抄」の(堀江氏を彷彿させる)主人公がフランス語訳の「樽」を読む場面がとても印象的だったのです。それだけでなく、「河岸忘日抄」は樽をめぐる物語でもありました。
主人公が住んでいるのはフランスのとある河岸に繋がれた船ですが、その所有者はワイン樽の船による運送で財をなしました。そして、死の床にある彼は、樽を棺として埋葬されることを望んでいるのです。もちろん、主人公の住む船の中にも古くて立派なワイン樽があります。
「樽」の樽の中には金貨が詰まり、その下には女性の手が見えましたが、そのワイン樽の中には‥‥(教えてあげない)。


ダブリン生まれの作家が1920年に発表した二都物語「樽」の初の仏語訳が出版されたのは、なんと1996年のことだったそうです。


樽 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

樽 (ハヤカワ・ミステリ文庫)


河岸忘日抄 (新潮文庫)

河岸忘日抄 (新潮文庫)