旭亭だより

年金暮らし老人の近況報告です

ボクシング (2/3)

二十代の頃、集金に伺う取引先で本業とは別にボクシングジムを経営している会社があり、所属選手が出場する興行があるとチケットをくれました。勤務先では私が使うことを許可してくれましたので、いただくたびに後楽園ホールに足を運びました。だいたいがリングからやや離れた席でしたが、一度だけ最前列だったことがあります。間違えたのか、あるいは皆勤賞のご褒美だったのでしょうか。
席の周辺にはジムを経営している会社の人たちがいて、試合を終えた選手が応援のお礼に来ることがありました。何人かの選手はその会社で働いていたようです。ファイタータイプでリング上では鬼のような形相をしていた選手が、同僚の女性たちに「今日はノックアウトできなくてごめんね」と笑顔で頭を下げているのは、心温まる光景でした。
リングサイドで観戦して感じたことがあります。いくら声援が飛び交っていても、ライトで煌々と照らされたリングの上だけには音がないのです。真空のような立方体の中でボクサーたちは粛々と殴り合っていました。